第2回テーマ:検査値の変動因子について
臨床検査値に影響を及ぼす因子― なぜ同じ検査でも、同じ人でも数値は変わるのか ―
第1回では、血液検査における「基準値」は、正常と異常を明確に分ける境界線ではなく、統計的に設定された目安にすぎない、という点を整理しました。
では次に気になるのが、「なぜ検査値は変わるのか」という点です。
臨床検査値は、病気の有無だけで決まるものではありません。
ヒトの状態、生理的変動など、さまざまな要因が重なり合って形成されています。
○検査結果は施設ごとに違うことがある
血液検査の結果を見返したとき、
- 「前回と数値が変わっている」
- 「基準値の範囲が少し違う」
と感じたことはないでしょうか。
実は、検査結果は検査を行う施設によって多少異なる場合があります。
その理由の1つが、検査方法や使用している機器・試薬の違いです。
血液検査を例にとっても、測定に用いる分析装置や試薬のメーカー、種類は施設ごとに異なる場合があります。さらに、測定機器にはもともと測定誤差 (分析誤差) が存在します。これは機器の性能として避けられません。加えて、同じ検査項目であっても、採用している「測定原理」や「測定条件」が異なれば、結果が完全に一致するとは限らないのです。
○臨床検査値に影響を及ぼす因子 ― 病態変動と生理的変動 ―
検査値の変動には、いくつかの理由があります。
大きく分けると、その要因は「病態変動」と「生理的変動」に分類されます。
まず、病態変動とは、疾患や炎症、臓器機能の低下など、病的な状態によって生じる変化を指します。体内で何らかの異常が起これば、それが検査値に反映されます。また、治療や薬剤投与といった医療行為そのものが数値に影響を及ぼすこともあります。
一方で、生理的変動は、健康な人であっても日常的に起こる変動です。
食事をしているか空腹か、採血が朝か午後か、前日にどれくらい運動したか、水分を十分に摂っているかどうか――
こうした条件の違いだけでも、血液検査値は変化します。さらに、季節の違いや心理的ストレスも影響因子となります。
つまり、「病気でなくても数値は動く」ということです。
生理的変動を理解するうえで重要な概念が、「個体間変動」と「個体内変動」です。
個体間変動とは、人と人との違いによる変動を指します。年齢や性別、血液型、遺伝的背景などがその代表的な因子です。同じ基準範囲内であっても、もともとの基準点は人それぞれ異なります。
一方、個体内変動とは、同じ人の中で時間の経過とともに生じる変動です。日内リズム、運動、体位、ストレス、食事・嗜好、妊娠などが関与します。たとえ同じ人であっても、常に同じ値を示すわけではありません。

検査値の生理的変動に関わる主な要因と、それに影響を受けやすい検査項目については、以下の表にまとめました。
表. 検査値の生理的変動 (臨床検査のガイドライン JSLM2021より引用)
| 種類 | 変動要因 | 変動検査項目 (例) |
|---|---|---|
| 個体間変動 | 性別 |
男>女:ヘモグロビン (Hb)、ヘマトクリット (Ht)、赤血球数 (RBC)、尿素窒素 (UN)、クレアチニン、尿酸、クレアチニンキナーゼ (CK)、中性脂肪 (TG)、血清鉄、γ-GT (γ-GTP) 女>男:赤血球沈降速度、黄体形成ホルモン (LH)、卵胞刺激ホルモン (FSH)、HDLコレステロール |
| 年齢 |
幼児>成人:コリンエステラーゼ、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT)、乳酸脱水素酵素 (LD)、CK、γ-GT、無機リン (iP)、ビリルビン、末梢血白血球リンパ球比率 小児<成人:総蛋白、アルブミン、免疫グロブリン、アミラーゼ、総コレステロール、UN、カルシウム (Ca)、白血球数 (WBC) 思春期高値:アルカリフォスファターゼ (ALP) 閉経後高値 (女性):総コレステロール、TG、ALP |
|
|
生活環境 生活習慣 |
高脂肪食:総コレステロール、LDLコレステロール、TG 高蛋白食:UN、アルブミン、アミノ酸 核・核酸を含む食事:尿酸 飲酒により高値:γ-GT、TG、AST (>ALT)、尿酸 喫煙により高値:WBC、C反応性タンパク (CRP)、フィブリノゲン、CEA 喫煙により低値:HDLコレステロール 高地居住により高値:Hb |
|
| 血液型 |
B、O型>A、AB型:ALP (小腸型ALP) Le (a-b-)で低値:CA19-9 |
|
| その他 | 遺伝的個体差、人種差、職業など | |
| 個体内変動 | 日内変動 |
朝>夜:副腎皮質刺激ホルモン (ACTH)、コルチゾール、血清鉄 昼>夜:総蛋白、尿酸、カリウム 夕>朝:白血球数、iP 夜>昼:UN、アミラーゼ |
| 日差変動 | 大きいもの:TG、ビリルビン、血清鉄 | |
| 食事 |
食後>空腹時:空腹時血糖 (FBS)、TG、インスリン、血清鉄、ALP 空腹時>食後:遊離脂肪酸、iP 高蛋白食:アミノ酸、アンモニア、レチノール結合蛋白、トランスサイレチン、白血球数 |
|
| 運動 | 運動後>運動前:CK、AST、LD、ミオグロビン、遊離脂肪酸、FBS、クレアチニン、乳酸、WBC | |
| 体位 |
立位>臥位:総蛋白、アルブミン、レニン、アルドステロン、ノルエピネフリン、エピネフリン、その他高分子成分 臥位>立位:心房性ナトリウム尿ペプチド |
|
| 妊娠 |
上昇:ALP (胎盤型)、凝固因子、甲状腺ホルモン、脂質、銅、セルロプラスミン、赤沈、フィブリノゲン、CRP 低下:総蛋白、アルブミン、Hb、RBC、血清鉄、フェリチン |
|
| その他 | 性周期、季節差 |
このように、臨床検査値は生体の動的な状態を映し出す指標です。
数値そのものだけを見るのではなく、その背景にある変動要因を理解することが、検査結果と正しく向き合う第一歩となります。
○検査値の「変化」をどう評価するか
ここまで見てきたように、臨床検査値はさまざまな要因によって変動します。
では、前回と比べて数値が変わっていた場合、その変化はどのように評価すればよいのでしょうか。
重要なのは、単に「上がった・下がった」と見るのではなく、その変化が生理的なゆらぎの範囲内なのか、それとも医学的に意味のある変化なのかを見極めることです。
検査値には、測定誤差 (分析誤差) や生理的変動が存在します。
そのため、わずかな差であれば自然な変動の範囲内である可能性もあります。
一方で、その人の通常の変動幅を超える変化がみられる場合には、生体内で何らかの変化が起きていることも考えられます。
検査値は単一時点の数字ではなく、時間とともに揺らぐデータです。
だからこそ、「基準値内かどうか」だけでなく、「変化の大きさと意味」に目を向けることが大切なのです。
次回は、これらの影響因子を踏まえたうえで、
基準値から外れた検査値をどのように捉えるべきか、いわゆる「異常値」の考え方について整理していきます。